中学生の大会では保護者が大会役員を手伝わなければならない。何度も大会に出ていると顔見知りの保護者が増えてゆき、学校のクラブや水泳クラブのことなどの情報を交換するようになる。
その中で所属する水泳クラブの評判は一番気になるところだ。悪い評判はなかなか聞けるものではないが、そんな情報も行き交っている。
「泳法違反のT」と「いいがかりのT」
今日の担当は計時係だ。
計時係をやっている途中に個人メドレーで1人の選手が失格になる。
ああ、またT君だ。
T君は子供が以前に所属していた水泳クラブの子で、いつも大会で泳法違反になる子だった。
予選レースが終了して計時係の仕事が終わると、私のそばへ2人のお母さんが寄ってきた。
前回の大会で仲良くなった人達だ。
こんにちは。今日も暑いですね。
さっきのレースで泳法違反があったでしょ。後学のために何が違反なのか競技役員に聞きに行ってきたのよ。
あったね、何が悪かったの?
T君はブレの時に時々2回足を蹴っているらしいのよ。バッタの時も足が対じゃなくてバラバラにキックしてる時があるって。
なるほど、そういう事か。
もう、いつものことだからマークされてるらしいのよ。
マークされてるの?彼、確かに失格が多いですね。
それでもT君はメドレーとバッタで出場して毎回泳法違反をとられるの。もう2年くらいずっと前の大会から失格になって名前が呼ばれるから覚えちゃった。
「泳法違反のT」って有名なのよ。
えっ!そんなに有名なんですか?
そうそう、いろんなクラブのみんなが言ってるよ。
そしてT君のお母さんは、失格になったタイムを「標準タイムが切れてるから県大会に出場させろ!」って競技役員に食ってかかるもんだから、「いいがかりのT」って競技役員の間でも有名なの。
あらま、親子そろって異名があるんですね。
結局、学校のコーチにもいいがかりつけて県大会にエントリーするんだけど、また泳法違反で失格になるの。
それでも、「失格でもタイムがボードに出てるのだから正式タイムでいいですよね!」ってゆずらないのよ。
失格にならなかった大会は記憶にないわ。
所属していた水泳クラブは超有名クラブ?
ねぇ、知ってる?T君が所属している水泳クラブも超有名なのよ。
へぇ、そんなに有名な水泳クラブなんですか?
以前に所属していた水泳クラブは、とても人数が少ない小さな水泳クラブで目立つように早い選手もいないはずだ。
そのお母さんはこう続ける。
有名って言っても~、名門だとか早い選手がいるとかじゃないわよ~。
違うことで有名なんですか?
みのりさん、あの水泳クラブに知り合いはいる?
いいえ。。
繋がりがあるんだったらちゃんと教えてよ~。
はい、大丈夫です。
(。。所属はしてたけど、誰とも繋がりはないし。)
エントリーが少ない種目ばかりを狙って出場する
私はその水泳クラブ内に妙な空気が漂っていたので極力関わらないようにしていた。
水泳クラブを移籍した今、もう言葉を交わすことも関わることもない。
じゃあ、教えてあげる。
あの水泳クラブの選手は、エントリーする選手が少ない長距離種目ばかりを狙って出るのよ。所属しているみんなが長距離選手なんて不思議じゃない?かといって早いわけじゃなく人が少ないから決勝に残れるわけ。3人しかエントリーがないような種目もあるから、ビリでタイムが標準タイムより遅くても3位入賞して上位大会に出てくるんだけど、標準タイムが切れてないから遅すぎて目立つのよ。きっと、コーチも親も同じような考え方なんだと思う。
それに、選手はみんな背が低くて痩せすぎか太りすぎで極端だからチームでいると余計に目立つのよ。
流石。世間は狭くて怖い。この人たちは、水泳クラブの事情を中にいた私と同じかそれ以上に知っている。
みのりさんの子供はがっしりとした体格だから、同じクラブだったらかなり目立つわよ~。
そ、そうですね。。(汗)
( 。。確かによく目立っていた。どうやら水泳クラブに所属していても学校の大会だけ出ていたので知らないみたいだ。)
よく知ってますね。
みんなが知ってることよ。何かとあの水泳クラブはとにかく評判が悪いのよ。
。。神様、どうかその水泳クラブに居たことはなかったことにしてください。
わいせつコーチのえせコーチ
このお母さんたちが言っていることは、単なるうわさ話ではなく本当のことだ。
小さな水泳クラブのことだが、一体どこまで知っているのかと考えると恐ろしくなる。
まだ有名なことがあるの。私見ちゃったのよね~。
何をですか?
あそこのコーチはわいせつコーチなの。
コーチがですか?
大会のロビーで、女子選手の股間に手を入れて「バタフライではこうやって腰を動かす!」って動かしてるの見ちゃった。でも、選手は「わかりました!」って言ってて、お母さんは頷きながら横で見てるのよ。変な光景よ。自分の子供だったら許せないわ!
ええっ!?そんなこと!
(。。ええっ!?とは言ってみたが、実はその光景を私も見ていた。やっぱりみんなが見ていたのね。)
まだあるわ。
まだあるんですか?
これも大会のロビーで、「はい!背筋を伸ばして!胸にパットなんか入れていないだろうな!よし!なまOK!」って言って胸触ってるのよ。こっちが赤面だわ。
。。はい、確かにやってました。これも私見てました。
そのうち捕まるんじゃない、あそこのコーチ。
悪い評判は大会で拡散する
だが、ひとつ勘違いしていることがある。
その男は、実はその水泳クラブのコーチではないということだ。
裏で水泳クラブの選手をコントロールしてはいるが、保護者のひとりである「えせコーチ」のことである。
その水泳クラブに在籍している時、水泳クラブ内でも大会でもコーチのような事をしている「えせコーチ」は如何なものかとコーチに言ったことがある。
だが、水泳クラブは「えせコーチ問題」を放置した。
結果、えせコーチはその水泳クラブのコーチとして見られ、わいせつコーチとして世間に広まっているのだ。
自業自得である。
所属している水泳クラブの悪評は中にいるときはわからない。
この2人のお母さんたちは隣の市のクラブの人達だ。これらの話はすでに市内の水泳クラブの人達にも広まっているに違いない。
そしてこれからも大会を重ねるごとに、更に悪い評判が広まってゆくのだろう。
まとめ
「水泳クラブの悪評は千里を走っていた。」
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