水泳クラブの移籍トラブルはパワハラのレスリング界と似ている。
「移籍を希望する水泳クラブの体験」のはずが「移籍トラブルを体験」し、あまりにもコケにされたので100倍返ししたという話(後編)である。
水泳クラブの沿革を知らないことは罪なこと
移籍トラブルを体験した翌日に父と話す。
じいちゃん、体験のつもりで行ったんだけど見学させられたよ。受け入れてくれないんだって。
<昨日の出来事を詳しく話す>
俺の名前は出したのか?
名前は言ってないけど、ここの水泳クラブができたときに関わったってことは言ったよ。
そうか、そのコーチは俺が「タイルを貼った」ぐらいにしか思うてないのか。まあ良いわ。社長に電話してみるとしよう。
時が経ったとしてもコーチは働いている水泳クラブの沿革は知っておいた方が良いだろう。
今でも人気がある水泳クラブは過去に実績を残しているから今がある。そして、それにはいろいろな人が関わっているのだから。
最強の2枚ジョーカー
1枚目のジョーカー
1枚目のジョーカーは父である。
父はあるオリンピックスイマーの1番弟子だったという。
新しいプールが作られると各所に呼ばれ、プールのこけら落としで泳いだそうだ。
水泳選手を引退してからは、トップスイマーだった後輩たちをコーチとして呼び寄せ、地元の水泳クラブの黄金期を築きあげた。
その水泳クラブこそが今回移籍先に選んだクラブだったのだ。
2枚目のジョーカー
2枚目のジョーカーはある水泳クラブのトップで、そのクラブのプールを新設したとき父にこけら落としをお願いした人物で、地元の水泳界でも有名な人である。
最も活気に溢れた古い時代は、水泳クラブという枠を超えて人と人の繋がりが築き上げた良き時代だったのだ。
ファーストジョーカーの逆襲
コーチの懺悔 Part1
父が水泳クラブの親会社の社長に電話をかける。
昨日、孫が水泳クラブでお世話になったみたいじゃ。悪かったのお。
Tちゃん、お孫さんが水泳しおるのか。そりゃ血筋だよ。それで、お孫さんはうちのクラブに入ってくれるんか。
いや、昨日行ったらしいが、受け入れないって断られたみたいだ。
行く前に言ってくれれば伝えておいたのに。
時代が変わってるからありのままの姿を見た方がいいと思ってのそのまま行かせたが、娘はさんざん説教されたらしいわい。
あのお嬢さんに説教したんかい。で、Tちゃんのことは話したんか?
水泳クラブが出来た時に関わったことは言ったみたいだが、まあタイルを貼った一人くらいにしか思わんかったのよ。
Tちゃん、そんなことはないって。そんな風には誰も思うてないって。
孫が快適に泳ぐことができるプールが無いのは不憫だと言われたらしいが、体験させてもらえずニンジンをぶら下げられた馬のように2時間見学させられたことが不憫でのぉ。目の前にプールがあって泳げんことが、孫に不憫な想いをさせたと思ってのぉ。あそこのプールは泳ぎやすいプールだから勧めたが、プールで選んだんか!と怒られたらしい。プールで選ぶのは当たり前のことだがのぉ。
泳がしてもいないんかい、Tちゃんごめんよぉ。
まあ、知っとるコーチもおらんようになったし時代も変わってタイルを貼った人の孫くらいにしか思わんかったのよ。お前と一緒に焼き肉行っても肉を目の前にして食べるなと言ったことはなかっただろ。孫にそういう想いをさせたことが不憫でのぉ。ああ、不憫じゃわい。
Tちゃんごめんのぉ。もう1回チャンスもらえんか。
ああゆう想いをさせられたら、娘はもう行かんと言うだろうよ。あれも頑固だからな。
ほんとすまんかったのぉ。コーチに聞いてみるよ。
コーチは、社長の話を聞いて青ざめたことだろう。
水泳クラブ体験の一報は所属コーチに
社長がコーチに話を聞くと、やはり所属先のコーチに電話して話をしており、今シーズンは移籍させたくないから猶予期間が欲しいなどのやりとりがあったことがわかる。
理由は簡単だ。
今シーズンにタイムが出て全国大会に行ってしまうと上級コーチに昇格できるからだ。
その微妙な位置に子供がいる。
所属クラブのコーチのその野望は在籍中に何度も聞いていた。
しかし、今回は移籍先クラブが所属クラブに電話しているので、ジョーカー達は所属クラブには怒ってない。
怒っているはずがニコニコに
コーチから事情を聞いた社長から父に電話が入る。
Tちゃんのお孫さんは、所属のクラブも移籍させたくないし、うちのクラブも欲しいって話だったよ。だからあんな話になってしまったようだ。
所詮、月謝を払っての習い事、どこのクラブに行こうが習う方の勝手よ。それをコーチがどうのこうの言う筋合いではないわ。なにを勘違いしておるんかの。
確かにそうだ、それはよく言っておくよ。コーチが言うにはお孫さんは体格も良いからどのクラブも欲しいタイプの選手らしい。Tちゃんに似たのだろうよ。
そうか、みんなで俺の孫の取り合いをやりおるんか。血筋は争えんのぉ。そうか、そうか、孫の取り合いか。
それならこの話はもう良いことにしよう。
事情を聴いた父はご満悦である。
セカンドジョーカーの逆襲
コーチの懺悔 Part2
だが、それだけでは終わらない。2枚目のジョーカーが移籍希望の水泳クラブのコーチに電話をかける。とは言っても電話をかけてくれと言ったのではない。昔の人は電話でコミュニケーションをとることが好きなのだ。
昨日、知り合いのお子さんがそちらの水泳クラブの見学に行ったらしいなぁ。
はい。
そして泳がせもせずに帰らせたなんて、なんてことをしてるんじゃ。
はい、すいません。
あの子は元々うちの水泳クラブにおっての。水泳クラブを閉鎖することになった時、体格も良いし、これからも水泳を続けるようにと、俺が言ったんだが、それが気に入らんかったか。
いいえ。
俺が言ったと言うたら鼻で笑われたらしいが、そんな鼻で笑われるようなことを言ったかの。
いいえ。
昔から水泳が好きな子での。今日も会ったが故障なんかしておらん。お前のことは顔も知らんが、あの子のことは良く知っておる。
はい。
水泳クラブには月謝を払って通うもの、移籍するのも自由でよほど素行が悪いなどの理由がない場合は断る理由もない。勝手に移籍騒ぎを起こして子供が泳ぐ所がないようなことをしてはいけない。
はい、すみません。
本人が泳ぎたいという所で泳がせてあげればよい。それを遮るのはよくないことだぞ。
はい。申し訳ありません。
コーチは、平身低頭で「はい」と「いいえ」くらいしか答えることができなかった。
移籍を希望した水泳クラブのコーチは、1日で2度青ざめたことだろう。
バトルは始まったばかり
2枚目のジョーカーによると、今回はとりあえず挨拶代わりに電話しただけとのこと。
どうやらこれで終わりとはならない雲行きだ。
でも、それは仕方がない。コーチがそれだけのことを言ったのだから。
流石に地元の水泳界の黄金期を作り上げた人たちの考え方は同じである。
「大人の都合で子供が泳ぐ機会を奪ってはいけない。」
「移籍するのは本人の自由であり誰も邪魔をしてはいけない。」
「移籍されるのはそれだけのサービスを提供できなかったことに問題がある。」
これらを考えないコーチにはジョーカーから何度でも電話がかかってくる。
移籍を希望した水泳クラブのコーチに、
勝手に移籍して、移籍した後に大会で元のコーチと会ったら挨拶できるのか?
と子供が聞かれたのだが、私もコーチに聞きたい。
コーチ達で勝手に移籍騒動にしておいて、大会で子供に会ったら顔を見れるのか?
と。
選手が移籍してもいいじゃないか
コーチのエゴが移籍トラブルを起こし、移籍元のコーチと子供の関係を悪化させていることに気づくべきだろう。選手は自由に移籍すればいい、選手はそのクラブの商品になった訳ではない。
選手が受けたいサービスを求めて移籍するのは当たり前の姿だ。そのクラブのサービスに物足りなくなったら、その上のサービスを求めればよい。
水泳クラブはクラブ同士の繋がりを考えて選手を囲い込むのではなく、サービスで競い合うことだ。選手が移籍してもクラブのサービスが良くなって戻りたいと言えばまた受け入れればいいじゃないか。そんな選手本位のシステムの方が、強いクラブ、強い選手を生むと思うのだ。
私は移籍トラブルが無くなることを望んでいる。
運に見放されてはいなかった
移籍トラブルになったが、「この水泳クラブどうしても入りたい。」と子供が言うのであればそれも可能になった。だが、子供が選んだのは「他の水泳クラブに入り、この水泳クラブを見返してやる。」ということだった。
水泳クラブを探す毎日
でも、思い描くような水泳クラブは見つからない。
どの水泳クラブを見てもキッズからの延長で選手コースはあるが、選手コースに本腰入れている水泳クラブには見えないのだ。
このまま良い移籍先が見つからなければ水泳を諦めて他のスポーツに行くしかないか。
そんな絶望感を感じている時に、ふとある小さな水泳クラブを見つけた。
早速、電話で話を聞くと、私が理想で思い描いていた細かい指導と水泳への取り組みだ。
なんだ、この水泳クラブは!こんな水泳クラブがあったなんて。
聞けば聞くほど、この水泳クラブで子供を泳がせたいと思うようになる。
移籍は受け入れていない
残念ながら水泳クラブの事情により移籍は受け入れていないという。
だが、
一度、泳ぎだけでも見てやって下さい。
とお願いすると、快く体験させてくれた。
そして、2時間の練習が終わったときにはコーチの反応が変わっていた。
この子は絶対に早くなる。面白い素材ですね。育てたい。
移籍は受け入れていないという話はもうどこかに消えていた。
コーチとの運命的な出会い
この時、初めてコーチとの運命的な出会いを覚えた。
ああ、この水泳クラブに出会うために移籍トラブルは必要だったのだ。もし、あの水泳クラブに入ったとしても、あのコーチの元では伸びなかった。
断られる必要があったのだ。
早速、父にも報告する。
小さなクラブだけど、見ているだけでも水泳に対する熱い想いを感じるクラブなんだ。
聞いたことや見たことを細かく説明すると、
ほう、ほう。そこまで見てくれるのか。そんなクラブはなかなかないぞ。地元にまだそんな水泳クラブがあってくれたか。
と、とても喜ぶ。
新しいクラブに変わって2週間での変化
その日から新しい水泳クラブに通い、とても信頼できるコーチの元で練習に励んでいる。
すごくキツイときもあるけれど、今とっても練習が楽しいんだよ。そして、泳いでいて早くなったことを実感できるんだ。
水泳クラブを移籍すると、環境の変化などによりタイムが落ちることが多いという。しかし、子供はすでにこの2週間で2秒はタイムを縮めている。
コーチの指導方法もさることながら、泳ぐことが楽しいという気持ちを思い出せてくれたことが良い方向に繋がったのだ。
良いコーチに指導してもらうことの大切さを初めて実感したのだった。
まとめ
「まさに、災い転じて福となすである。」
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