自動車運転過失傷害事件 第2回公判 被告人質問
検察官による被告人質問
(検)A子さんが重い障害を負ったことをいつ知ったのか?
― 事故後思い続けました。
(検)今回の事故は簡単な事故ではないことは判っていたか?
― わかりました。
(検)事故を起こして会社には電話していますよね?
― 会社には電話しています。
(検)それはいつですか?
― 救急車に乗せられた時だと思います。
(検)救急車が来る前に電話しているのではないか?
― ずっと声をかけ続けたので、そばを離れていない。
(検)何故声をかけ続けないと思ったのは何か理由があるの?
― 声をかけ続けなければ、今以上にどんどんA子さんの状態が悪くなっていくと思った。
(検)それは誰かに習ったわけじゃなくて、貴方自身がそう思ったのか?
― そうです。
(検)事故を起こして怪我をしていれば救急車を呼ぶのは判りますよね?
― 今思えば当然のことだと思いますが、声をかけることで最悪な状態になる一歩手前で踏みとどまってくれるということが頭の中にあった。
(検)声を掛けるだけでは意味がないと思うが、冷静な判断ができなかったということか?
― その時に私がすべきことは、声をかけ続けることが最善というか、ここを離れてはいけないと思った、少しでも私の声で意識が戻るきっかけを持って欲しいと思った。
(検)言い訳がましいんですけど、それはあまり意味が無くて、110と119番すべきだったことは判っていますか?
― そうですね、第一には救護だと思いますが、その時には離れられませんでした。
(検)では5月12日の実況見分の話をします。
この日、ご両親とは全く話していないのか?
― 話していません。
(検)一緒の現場にいて実況見分はしていたんですよね。
― はい。
(検)あなたの話だと、実況見分の邪魔をしてはいけないということでしたね。
― 電話でも、電話はいいですからとか、何かあればこちらから連絡します、との指示を貰っているわけなんで、軽はずみで近づくことはやってはいけないと思った。
(検)あなたの言い方だと、近づいて謝ることが軽はずみでやってはいけないことに聞こえますが。
― A子さんは車いすで現場に来られていて、事故の日の事を思い出すのは、A子さんにと って辛いことであり、実況見分が終われば疲れておられるだろうと、私が近づくことすら負担になるだろうと思った。
(検)A子さんが実況見分しているのであって、ご両親が実況見分しているのではないですよね、ご両親の所には近づこうと思えばいくらでも近づけるのではないですか。
― ご両親は私を憎んでおられるだろうし、A子さんも現場検証が終われば早く現場近く のおばあさんの家で休まれたいだろうと思いました。
(検)あなたが憎まれるようなことをするから謝罪しなければいけないのではないのか?
― そうです、その時点では謝罪をしようと思わないのではなくて、ご両親に頂いている指示、意向、想いというのを勝手に許可も無くやぶって、つらい現場に長くいて頂くのは申し訳ないと思った。
(検)簡潔に答えてくれたら結構です。ご両親から言われたのは、毎日電話してくるから、電話は結構ですと言われたのではないのか?一切謝罪まで結構ですと言われたのか?
― こちらが落ち着いたら連絡しますのでもういいです、と言われた事に対しては私が積極的に近づいて行くということも控えなければならないと理解しました。
(検)私にはよくわかりませんが、あなたはご両親の言葉から謝罪はもういらないととらえたということか?
― 謝罪がいらないとは思いません、ちょっとそっとしておいてくれますかというか、とにかく少し余裕が出来れば連絡するのでそれまではどうか待ってもらえないかと言われたととらえた。
(検)現場検証の時に携帯をいじっていたと、ご両親に聞いているが記憶にあるか?
― 記憶にありません、携帯を持ってとか暇つぶしだとかそういうのは一切ありません何かで携帯を持ったかもしれませんけど、説明出来る記憶がありません。
(検)現場検証に、車で行かないといけないかどうかは警察の人に確認したから乗って行ったのか?
― 確認していません。
(検)常識的に考えて事故の現場に被害者が来ることが判っていて、あなたが声をかけるのとね、事故を起こした車を乗りつけるのと、どっちが被害者に負担をかけると思いますか?
― その時はそこまで考えていなかった。
(検)そんなことも考えられないんですか?
― その後に警察に行かないといけないということしか頭になかったと思う。
(検)あなたの家族はあなたがこのような大きな事故を起こしたことは知っているのか?
― 知っています。
(検)奥さんにはどういう風に話していますか?
― 重大な事故を起こしてしまった、自分の漫然運転だったと。
(検)お子さん達にはどういう風に話していますか?
― お父さんは交通事故を起こしてしまった。
(検)その結果どうなったかを話しているのか?
― 相手の方は怪我をされているよ。
(検)怪我の状態は話しているのか?
― 詳しくまでは子供には話していない。
(検)それはどうしてか?
― 子供には理解できないだろうと。
(検)小学校4年と5年で理解できないのか?
― はい。
(検)6月30日のことについて聞きます、あなたは何故、感情的になる必要があるのか?
― 子供たちがちらしを見れば、おまえの所のお父さんだとわかる、誹謗中傷にさらされるかと思った。
(検)誹謗中傷とは具体的にどういうことですか?
― 怪我をさせたのは○○のお父さんよね、っという。
(検)それって誹謗中傷ではなく事実ではないのか?
― その話がどう伝わってしまうかわからない部分ですけれども、単純にそれを恐れました。
(検)貼り紙の内容は、お子さん達に誹謗中傷が及ぶような内容だったのか?
― 通学していた子供たちもほとんど顔見知りの子供たちだし、個人を特定できると思った。
(検)あなたの記憶の限りで結構だが、どうやって個人を特定できる内容だったのか?
― 車の写真もあったし、事故現場でほとんどの子供が私の車を見ているし、色も、車種も、加害者、42歳、男性、見た子供であれば容易に一致するでしょうし、確かに名前は出ていないが、あれは特定できると私は判断した。
(検)特定されてあなたが事故の当事者であることが判れば、息子さん達は困るのか?
― 困るというか話題に出れば子供たちの理解の及ばないところまでも質問がいってしまうかもしれないから困ると思った。
(検)辛い想いをさせている原因はあなたにあることはわかっていないか?
― わかっています。
(検)わかっているけどその時は忘れちゃったんですかね?
― そうですね、私が責任を問われるのは当然のことですから、事故を起こしているわけではない子供たちが、私がしてしまったことでいろいろ話題にあがったりすること自体が辛いことだと思いました。
(検)でも、よく考えたらあなたが犯罪を犯したのですから、あなたの犯罪で子供たちが辛い思いをしないようにするのであれば引っ越すとかいろんな方法が・・・
(それは、と裁判官が制止)
(検)被害者っていう言葉も気にいらなかったのか?
― 認識が足らなかったものですから、考え方を混同したというか、気に入らないというか、その時は正直びっくりした保険の担当者から、こういう事故はあなたが加害者ですという説明を受けて、そうなんだって、そこで知りました。
(検)過失割合の話と被害者加害者を混同したっていう話ですよね、こういう事故っていいますけど怪我を負っているのはA子さんだけ、A子さんが自転車であなたが車、どこからどう見てあなたが被害者になるのか?
― 私の方が被害者といいますか、そうではないんですけど、私の全てが加害者ではなくて、A子さんのどこかに加害者があるのかというとそうではなくて、問題を混同して考えていた。
(検)過失割合って言うとお互いに過失があって、お互いに賠償額とかの責任、金銭を分け合うのは判りますかね?
― 片方が加害者で、片方が被害者っていう考えが不足していたと思う、不足していたというか持ち合わせていなかったと思う。
(検)どっちも悪い、お互い様だという風になるんですか?
― どっちも悪い、お互い様ではなくて、事故の責任部分を考えた時にこちら側にはこういった部分、相手側にはこういった部分というのがあるぐらいの認識しかなかった。
(検)結局あなたはね、A子さんにも責任がある、過失があると思って、自分の責任から逃げているのではないか?
― それは逃げていません。
(検)自分のやったことを判っていて、被害者の家に怒鳴り込むような電話は普通できますか?
― 認識部分もあったし、確認したいこと聞きたいことあればちゃんとした方法でなければならなかったと今は思っている。
(検)あなたの話をさっきから聞いていると全部認識不足なんですけど、ほんとにそうなんですか?
― と、いいますと?
(検)認識不足じゃなくて、あなたの考えが足りなくて浅はかな行動していたり、あとから適当に理由をつけて話をしているから、そんなつじつまが合わない話になるんじゃないんですか?
(次の質問をと裁判官)
(検)免停は終わったんですか?
― 終わりました。
(検)車は今後運転し続けるということなんですかね?
― はい。
(検)数名の子供の搬送に使うという話があったが、具体的にはどういうことに使うのか?
― 子供会の行事であったり、開催される場所まで父兄の手がいるし、5~6人の子供を乗せることが出来るので。
(検)あなた以外に運転出来る人はいないのか?
― 無理をして探せば、絶対いないとは言えません
(検)あなたは重大な事故を起こしておいて、運転が怖いとかは思わないのか?
― 怖いです。
(検)事故のあといつ頃から運転を再開したのか?
― 2日後です。
(検)被害者に一生残るような怪我を負わせておいて、あなたにどういうことが出来るかを考えたことはないのか?
― 一番しなければならない、A子さんに全く謝罪が出来ていませんので、心から謝罪しないといけない、それが全く出来ていないんでずっと止まっているといいますか。
(検)あなたがしたいことじゃなくて、被害者や被害者の両親が求めている事をすべきじゃないのか?
― それはなんでしょう?
(検)あなたが出来ることは何かありますか?と質問したことに対してあなたは、私はA子さんに謝罪がしたいですって答えていますよね。
私が聞いているのはあなたがしたいことを聞いているのではなくて、あなたがすべきことについて考えたことはありますか?という質問です。
― 私がすべきことは今回の事件を、あっ、すいません、事故を真摯に受け止めまして、当然のことですが2度とこのようなことは起こさない、それが私のすべきことだと思います。
(検)ちなみにあなたは被害者のご両親が自分の子供が障害を負わせられて、それがあ なたの責任で、まだあなたが車を運転し続けているとか、お子さん達の搬送とかをやっていると知ったらどういう風に思うか考えたことがあるか。
― そこに特化して考えるとすれば、まず謝りたい、それからお電話をして、お電話は いいですとか、そういった会話をさせて頂くたびに、○○さんにも生活がある、○○さんは○○さんのことを考えて下さい、子供のことを考えてあげてください、今は退職していますが、どうなるか不安定な時にはお仕事の方にも復帰されてくださいなどの言葉を頂きましたので、今おっしゃられるような想い、想った事は特にありません、自分はしっかり今後の生活を歩んでいかないといけないんだなとは思いました、思っております。
(検)あなた自身は自分では充分反省しているつもりだってことですか?
― 反省しております。
(検察官による被告人質問終了)
実録 交通事故刑事裁判 第2回公判パート3につづく