水泳のクロール泳法には、1軸クロールと2軸クロールと呼ばれるフォームがある。
一説によると、左利きか右利きかが影響しているという人もいるらしい。日本の水泳クラブでクロールの選手を見ると、ほとんどの選手が1軸であることがわかる。だが、国内や海外の有名選手は2軸であることが多い。
海外のクラブのジュニア選手に対する考え方は泳ぎに慣れることが重視されている。日本のジュニア選手のように距離を泳ぐという考え方とは違う。この考え方の違いが1軸と2軸にも関係しているのではないだろうか。
1軸クロールと2軸クロールの違い
1軸クロール
1軸クロールは、自分の体の頭のてっぺんから串を刺したかのように“見えない軸”を想定して、その軸を中心にして前に進むクロールだ。
右手が入水するときには左足をダウンキック、左手が入水するときには右足をダウンキックするというように、両手両足は陸上で歩行している時の動きになる。
1軸クロールでは、見えない軸を中心にしてローリングという体のひねり動作を伴い、手はS字プルになる。
一般的に知られている泳法である。
2軸クロール
2軸クロールは、体の右肩あたりと左肩あたりから、二つ串を刺したかのような感覚で泳ぐ。
右手が入水するときには右足をダウンキック、左手が入水するときには左足をダウンキックするというように、陸上ではナンバ歩きと言う歌舞伎の演出である六方にみられる動きで、同じ側の手と足を動かして歩く動作になる。
2つの軸を意識することでローリングの動作は少なくなり、肩と腰にかかる負担も少なくなる、お腹の表面は常にプールの底に向けていることを意識する。
泳ぐときは2つの軸を切り替えながら泳ぐことになるので、とてもゆっくりのピッチでは不安定になるが、ピッチを上げることで安定する。手はI字プルになる。
水泳コーチでも異なる1軸クロールと2軸クロールの見解
機会があるごとに、いろいろなコーチに1軸クロールと2軸クロールはどちらが良いのか?を聞いてみた。
あるコーチは1軸クロールも2軸クロールも、どちらでも変わらないという。別のコーチに聞くと、短距離は2軸が有利だという。この短距離とは400mまでの泳ぎだそうだ。
だが、どちらのコーチの練習の中でも、100%の選手が1軸クロールで泳いでいる。2軸クロールで泳いでいる選手はいないのだ。
2軸クロールは、やはり特殊な泳ぎなのだろうか。
私は2軸クロールしか泳げない
子供が水泳クラブに入って泳げるようになった頃、親子で25mを競争することになった。
結果は、なんとか引き分けだったが、子供がどんな泳ぎをしているのかを水中から観察してみる。
あれ、足の動きが反対じゃないか。おかしいぞ、その泳ぎ方。ほらお父さんのように、こうやって。右手の時に右足、左手の時に左足。
そんなの出来ないよ。右手の時は左足だよ。初めからそう教わったよ。
・・そうか、最近の泳ぎ方は変わったんだね。父さんの泳ぎ方は40年前だから。
そうだよ、ちゃんと勉強してよ。水泳のことを知らないくせにごちゃごちゃ言わないで。
・・泣。水泳のことは知ってるのに。。
なぜ足が反対なのか釈然としない私は、帰ってから1軸と2軸について調べる。
トップスイマーは2軸クロール泳法
2軸という言葉が使われだしたのは2003年頃からのようだ。イアン・ソープ、マイケル・フェルプスなどのトップスイマーは2軸クロールである。
という事は、
きっと私の泳ぎは1軸クロールで旧タイプの泳法なのだろう。昔は足と手の関係など言われたこともなかったな。
と思いながら、動画でマイケル・フェルプスの泳ぎを真下から見てみる。何かと便利な時代になったものだ。
なるほど、右手の時に右足、左手の時に左足。・・!?
あれ?、これは私の動きと一緒ではないか。
ということは、子供が1軸クロールで、私が2軸クロールということなのか!?
変な時代感覚にとらわれる。なぜ私の泳ぎが2軸クロールなのかはわからない。泳ぎ初めから2軸だった。考えて見るとローリングと言われる動きが出来なかった記憶がある。
私は、小学5年生になるまでかなづちだったのだが、泳げるようになって半年後、低学年から水泳クラブに通っていた友達よりずいぶん早くなっていた。
もしかして、それは2軸だったからなのか。
実は2軸クロールは昔からあった
1軸2軸と言われるようになったのは2003年頃の話、それ以前の泳法はどうであったのかについて興味深い話を聞いた。
1940年代、父はインターハイの選手であった。
種目は1500mの長距離。1400m位までは1軸で泳ぎ、ラストスパートをかけるときには2軸で泳いでいたという。しかし、1軸、2軸という理論を考えてのことではない。
疲れない泳ぎ(1軸)で泳いでいてピッチを最高に上げてゆくと自然に(2軸)と呼ばれる足の動きになったのだという。足の動きが変わることでスピードがアップしたという。
2軸クロールはずいぶん昔からあったのだ。
日本で初めに覚えるクロールは1軸クロール
日本の水泳クラブでは、1軸クロールを初めから教えるのだろう。
だから、子供が水泳クラブで教わったのは1軸クロール。
私は我流で泳いだので、いつの間にか2軸クロール。
父の時代も我流で、泳ぐ中でその両方の特性を自然に習得することで、1軸クロール+2軸クロールになったのであろう。
1軸クロールか2軸クロールか
私の考えではあるが、1軸クロールが向いているのか、2軸クロールが向いているのかについては個々の体格が関係するのではと感じている。
1軸クロールで影響がない年齢
体がまだ小さい小学生であれば、1軸でも2軸でもそんなにタイムの違いはないように感じる。体重やプルでかく力も弱いものであるからだ。
また、ローリングにより足にひねりが加わっても、水の抵抗となるほどの足の太さもないので1軸でも早く泳げる。
しかし、まだ体が成長していない時期に膨大な練習量をこなそうとすると、ローリングにより肩や腰を壊すことに繋がる。
2軸クロールが有利になる年齢
しかし、成人体型に近づくにつれ1軸クロールには限界が見えてくる。
体重と筋力が増加した頃、プルでかく力が向上すると、2軸クロールの方がスピードが出ることを実感することになる。2軸クロールの方が前に重心を持ってきやすいのだ。
また、ローリングが少なくなりフラットに足を蹴ることができるため、水の抵抗も減りスピードアップにつながる。
スムーズに軸移動できることで、肩や腰への負担は軽減し呼吸動作も早くできる。
故に、2軸クロールが主流の海外水泳選手は、肩や腰の故障が少ないと言われている。
本当は人に言いたくない2軸クロール
良いことばかりの2軸クロールは、ずいぶん昔から実証されており、現在もトップスイマーが使っている泳法だ。
しかし、1軸クロールで泳いできた人にとって、2軸クロールに切り替えるということは、かなりの練習が必要になるであろう。
2軸クロールを習得するためには、とにかくフラットな姿勢を維持することを徹底的に訓練することが早道である。
まとめ
日本ではジュニアの活躍は凄まじいが、ジュニア以降の選手の伸び悩みを克服するヒントは2軸かもしれない。
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