交通事故刑事裁判 第3回公判パート2

刑事裁判

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自動車運転過失傷害事件 第3回公判 委託弁護人による意見書

第3回公判は、

1.論告要旨

2.委託弁護人による意見書

3.弁論要旨

4.被告人の最終弁論

自転車運転過失傷害被告事件について、被害者参加人委託弁護士の意見は下記のとおりである。

第1 事実についての意見

1 公訴事実について

公訴事実については被告人はこれを全て認めている。なお、公訴事実の確定は、専ら起訴検察官の裁量に属するものであるが、公訴事実中の被告人車両の進行速度を時速約40キロメートルとし、被害者の動静として被告人が被害者を発見した地点を被告人車両進行方向左前方約11.2メートルとして被害者が横断を未だ開始していなかったものとしている点については、後述のとおり、客観的証拠から明らかな事実や、被害者の実況見分当時の指示説明及び被害状況についての供述に反するものであるのに、被告人の変遷を遂げた供述内容や不自然な弁解に安易に依拠したものであって、極めて遺憾である。

2 量刑の基礎となる事実について

(1)事故態様について

①問題の所在

本件は、被告人が、自動車を運転中、進路前方の見通しが悪く、横断歩道を横断する歩行者等の有無の確認が困難な交通整理の行われていない交差点を直進進行するにあたり、適宜速度を調節して、歩行者等の安全を確認しつつ横断歩道上を通過すべき注意義務が道路交通法38条1項によって課されていたのに、これを怠った過失により、自車を進路前方の横断歩道を自転車で横断中の被害者に衝突させて、重篤な高次脳機能障害を残す傷害を負わせたという事案である。

被告人は、本件事故態様に関し、a.衝突場所、b.交差点進入速度等、c.被害者の動静について、被害者と異なる主張をなし、或いは、その供述が変遷していることから、これら量刑の基礎となるべき事実の確定及び被告人の弁解の信用性等が問題となる。

②衝突場所と被告人供述等の信用性

被告人は、事故当日の検甲9実況見分調書供述調書や検乙3員面調書及び検乙5検面調書では、衝突場所が横断歩道上であったことを認めてはいるが、被害者立会の現場検証において、「本件は交差点の真ん中で起きた事故である」旨の弁解をなしていた(被告人質問、検甲11上申書)。しかし、検甲9実況見分調書添付現場見取図及び写真第6号ないし第13号などの客観的証拠に照らせば、衝突現場が横断歩道上であることは明らかであって、かかる弁解が事実に反していることは明らかである。

けだし、横断歩道上の被告人車両のスリップ痕や被害者の自転車のタイヤ痕は、横断歩道上から伸びているのであって、横断歩道上で被告人運転車両が被害者運転自転車に衝突したためにこれらの痕跡が生じたことは明らかであるからである。

また、事故を実験した被告人にとっては、衝突場所は間違え得ようはずもない事実であって、にもかかわらず、交差点の中央付近を衝突場所であると弁解しようとしていた被告人の態度からは、事実に反してでも自己の刑事責任を軽からしめようという供述態度を認めることが可能なのであって、その余の事故態様等に関する被告人の弁解の信用性が著しく低いことを忠実に示す結果となっている。

一方、検甲8実況見分調書における被害者の指示説明は、客観的事実とも合致しており、その信用性が極めて高いことを裏付ける結果となっている。

③交差点進入速度について

被告人は、事故当日には、検甲9実況見分調書添付の現場見取図の①地点では時速50キロメートルで進行しており、②地点で本件交差点を見た、③地点で被害者を発見して急ブレーキをかけたと指示説明するとともに(検甲9実況見分調書)、本件交差点を直進予定で時速約50キロメートルで進行中に左から来た自転車と衝突した旨を述べている(検乙2員面調書4項)。③地点以前の地点で制動を開始して原則させたとは述べてはいないのである。

ところが、被害者が立会人として指示説明を行った実況見分に立ち会った後に録取された検乙3員面調書では、検甲9実況見分の際には単に本件交差点を見た地点であるはずの「②地点から減速しながら交差点内を見た」、「時速40キロメートル位で進行中の③地点の時、左方道路ア地点を自転車に乗って坂を下ってくる相手の方に気がついた」と供述するとともに、検乙4検面調書では、わざわざ「私は、警察で『時速50キロメートル』と説明しましたが、改めて当時の状況を振り返ると、私としても、横断歩道が先にあると分かっていながら、時速約50キロメートルという結構速い速度で進行することはなかったと思います。」、「事故後、何度か現場に行き、そこまでの速度ではなかったと思い出したので、訂正しておいて下さい。」と進行速度に関する供述を変遷させている。

しかし、かかる供述の変遷には合理性は認められない。

けだし、第1に、時間が経過すれば経過するほど、記憶は低下していくはずであるのに、検乙3員面調書は事故から2ヶ月間以上が経過した日に、検乙4検面調書は事故から8ヶ月間以上が経過した日にそれぞれ作成されているのであって、「改めて当時の状況を振返った」とか、「思い出した」とかの説明だけで、事故直後の鮮明な記憶に基づいたはずの進行速度に関する供述を覆すには足りないというべきだからである(なお、被告人・弁護人のいずれも検乙2員面調書の任意性を争ってはいない)。また、第2に被告人車両の左右の前輪スリップ痕が道路面に印象されているのは、衝突地点付近からであることが明らかであるところ(検甲9実況見分調書現場見取図、写真第6号ないし第13号)、被告人が被害者を発見して急制動を試みたという被告人の位置である③地点から衝突時の被告人の位置である④地点までの距離は10.9メートルであり、③地点からスリップ痕開始地点までの距離はこれよりも長いことが明らかであるところ、急制動時の通常人の反応時間は約0.75秒であることが公知である。そこで、スリップ痕が印象されるまでの距離を10.9メートルとして空走時の被告人車両の速度を計算すると次の計算式のとおり、時速50キロメートルを超えるのである。

(10.9m÷0.75秒)×3600秒/時 ≒ 52,320m/時 =52.32km/時

なお、被告人は職業運転手であり、反応時間は通常人よりも短いと見込まれ、上記計算式の結果よりも高速であったことは予想されても、これを下回る速度とすべき要素はその余に存在しない。

第3に、証拠上、明白である衝突地点に関してですら、横断歩道上ではなく交差点中央付近であったと主張し、或るは後述するように目撃者捜しを妨害する等として自己の刑事・民事上の責任を少しでも軽いものにしようと不誠実な対応をとる被告人の言動からは、進行速度に関する被告人の供述の変遷が、被告人の記憶に基づくものではなく、自己の責任逃れのためであると考えられる。

以上のとおり、本件事故発生直前の被告人車両の進行速度が、最高制限速度時速30キロメートルを大幅に超過する時速50キロメートル以上であったことは明らかであるというべきであり、これを翻した検乙3員面及び検乙4検面の各供述調書や被告人質問には信用性がないことは明らかである。

④被害者の動静について

被害者は、高次脳機能障害の影響が顕著となってはいなかった日に実況見分に立ち会って指示説明をなし(検甲8実況見分調書)、被告人車両と衝突した際の自らの動静について、「横断歩道を渡っている最中に、車が、猛スピードで走ってきたので、道路を足で蹴って後ろに下がろうとしたところ、上手く下がりきれずに衝突してしまった」と明瞭に述べている(検甲2員面調書)。

これに対し、弁護人は、検甲2員面調書及び検甲8実況見分調書については全部同意をなし、被告人質問でも被害者の動静については全く触れることもなく、被害者の動静に関する被害者供述を争う姿勢を全く示してはいない。そのため、本件公判廷においては、検察官は被害者を証人として申請することはしていないのである。

ところが、被告人は、検甲9実況見分調書では、被害者が自転車を運転して横断歩道上に進入してきたと指示説明をなし、検乙3員面調書で「被害者は安全確認を怠った」と述べ、検乙4検面調書では「(被害者が)私の車に向かってくる感じ」、「被害者は、交差点手前で停止後に発進を始めたのではなく、進行を続けていた程度の速度を出していた」などと供述し、本件公判廷においても被害者委託代理人弁護士の質問に対して同様の供述をなしており、被害者の供述内容とは全く異なる弁解をなし続けている。

しかし、かかる被告人の弁解は凡そ信用できない。

けだし、仮に、被告人が③地点でア地点にいる被告人を発見し、②地点でイ地点にいる被告人の自転車と衝突したのであるとすれば、被告人が③から④に移動した10. 9メートルの間に、被害者はアからイまでの5. 9メートルを進行したこととなる。

すなわち、被害者の自転車の進行速度は、被告人車両の進行速度の5. 9/1 0. 9となる。

そこで、被告人の弁解に従って被害者自転車の進行速度を考察すると、被告人車両は④地点以後に制動を開始したことは前述のとおりであって、③から④まで被告人車両の進行速度には変化はないのであるから、仮に被告人が弁解するように被告人車両が時速40キロメートルで進行していたとすると、被害者の自転車の進行速度は、次のとおり、時速21.65キロメートル、秒速は6.01メートルにもなる。

40 km/時 X 5.9/10.9 ≒ 21.65km/時 = 6.01 m/秒

被告人車両が時速50キロメートルで進行していたとすると。被害者の自転車の進行速度は、次のとおり、時速27. 06キロメートル、秒速7. 52メートルにもなるのである。

50 km/時 X 5.9/10.9 ≒ 27.06 km/時 = 7.52 m/秒

自転車の平均速度は時速15キロメートル前後といわれており、どちらの場合としても自転車としては相当な高速である。

けれども、第1に、被告人の指示説明等に従えば、被告人はア地点で自転車に乗った被害者を発見したというのであり、横断歩道上のイ地点で衝突したとするためには、被害者の自転車は時速20キロメートル以上で坂道を交差点に向けて下り、ア地点付近で堺に沿って斜め左に曲がり、すぐに横断歩道付近で斜め右に曲がって横断歩道を渡り始めて被告人車両と衝突するまで減速しなかったこととなるが、かかる運転が著しく困難であることは進行経路の状況から明らかであるし (検甲9現場見取図、写真第20号〜22号、30号、31号)、被告人が弁解するように被告人車両に向かってくるように見えるはずもないのである。

第2に、被告人が弁解するように被害者が相当の速度で横断歩道に進入してきたのであるのならば、自転車の前輪タイヤのタイヤ痕や被告人車両と衝突した後の被害者の転倒位置や自転車の転倒位置は、慣性の法則に従い、衝突時の被告人車両の進行方向にかかる力学的ベクトルのみならず、被害者の自転車の進行方向にかかる力学的ベクトルの影響を受けるはずである。

すなわち、仮に被害者が、被告人の述べるように時速20キロメートル以上の「進行を続けていた程度の速度」を出していたとすると、被害者の自転車のタイヤ痕は、少なくとも始点から暫くは右方向に印象されるはずであるが、検甲9実況見分調書写真第16号をつぶさに観察すると、自転車のタイヤ痕は、被告人車両進行方向の右方向には流れておらず、最初から左方向に印象されており、被告人の供述と矛盾する結果となっている。

また、写真第14号ないし16号によれば、被害者の自転車のタイヤ痕は、自転車の中央付近から後部付近を中心軸として被告人車両進行方向の左方向に向けて回旋したタイヤ痕となっており、被害者が供述しているように、停止状態の被害者及び自転車に被告人車両が衝突したことを示す結果となっている。

さらに、被告人車両の損傷部位等からは、被告人車両の前面バンパー左側付近が自転車の座席シート前から前輪部分にかけて衝突し、次いで被告人車両の前部フェンダー左側面が被害者に衝突したものと推測されるが、被害者が時速20キロメートル以上で被告人車両と衝突したというのであれば、被害者の転倒位置は衝突時の被害者の位置から衝突時の被告人車両の進行方向であるはずのスリップ痕に平行に引いた線分の右方に存在するはずであるし、自転車の転倒位置についても同様のことがいえるはずである。

しかし、実際の被害者の転倒位置であるウ地点と衝突時の被害者位置であるイ地点とはそのような関係にはなく、むしろ転倒位置は被告人車両スリップ痕の平行線よりも左側となっている。自転車の転倒位置についても同様である。

これらに加えて、被告人の被害者の動静に関する弁解の信用性を鑑みるに、前述した衝突場所や進行速度に関する被告人の不可解な弁解並びに後述する被告人が被害者の両親の目撃者捜しを妨害していた事実等に照らせば、被害者の動静に関する被告人の供述を信用することは到底出来ない。

被告人は、既に捜査段階において、重い傷害を負った被害者が頻繁に捜査に協力できぬことを良いことに、請わば言いたい放題の弁解をなし続け、さらには、被害者の供述調書を全部同意したことなどために被害者が証人として出廷しないことを良いことに、同様の態度を本件公判廷でも貫いているのである。

以上、被害者が供述するように、本件事故当時、被害者は既に横断歩道上の横断を開始しており、被告人車両が高速で進行してくるのを発見して後戻りしようとして停止していたことは明らかであり、これに反する被告人の弁解が到底信用できないことは明らかである。

(2)事故後の被告人の対応について

①救護義務の不履行

本件事故後、被告人は自ら救急車を呼ぶ等、自動車運転者に当然に要求される義務を履行していない (道路交通法72条1項)。

これについて、被告人は、自分の声で少しでも被害者の容態が悪化するのを避けられればと思ったため、被害者に声をかけ続けていた等と述べている (被告人質問、検乙3員面、4検面)。

しかし、係る弁解は極めて不自然である。いくら気が動転していたとはいえ、最高制限速度を超えた速度で走行していた被告人車両と衝突して道路上に倒れている被害者の状況を見れば、自ら救急車を呼ぶのが当然の措置であって、かかる被告人の弁解を正当化することは到底できない。

また、被告人は、救急車を自ら呼ぶことはしなくとも、自らの勤務先には架電しているのであって (被告人質問)、しかも、その時期は、事故直後であったことすらうかがわれるのであり (検甲12上申書)、被告人の事故直後の対応が著しく悪いことは明らかである。

②被害者親族への頻回な架電

被告人は、本件事故後、被害者の父の携帯電話番号が判明しているのに被害者の母の携帯電話番号の開示を求め、3月7日から14日まで毎日のように、その後は、3月17日、4月6日と。

被害者の親族が断るまで主に被害者の母宛てに架電を繰り返し。被害者親族に耐え難い不快感を抱かせている (被告人質問、検甲12、弁1)。

被告人はこれについて、被害者の症状が心配であったからなどと弁解しているが、かかる被告人の弁解自体に、被告人自身の不安をぬぐい去るためには被害者やその親族の心情等には思いをいたそうとはしない自己中心的な人格態度が如実に表れている。

③3月12日実況見分後の不穏当な弁解態度等

被告人は、被害者立会の実況見分の際、事故を起こした被告人車両を事故現場に乗り付け、被害者や親族に謝罪の言葉を書けることもなかったことは関係証拠から明らかである (検甲12、被告人質問、弁4の1)。被告人は、これらについて、「私のような人間が、被害者の目の前に行ってはならない」とか「ズケズケ行くのも申し訳ない」等の弁解をなしているが、被告人は事故後は被害者宅に架電を繰り返していたこと、6月30日午後10時30分から1時間30分にわたって目撃者捜しのビラを貼ったことに執拗に抗議して被害者の母の携帯電話に架電はしながらも、本件正式裁判直前まで謝罪の意思を示そうとしたことは一度としてなかったこと等に照らすと、いずれも反省の態度が欠如したと指摘される事項についての言い訳でしかない。

また、被害者両親は、被害者の指示説明の後、被害者の指示説明との食い違いの説明を求められて、

a.「頭を打っておかしくなったやつのことを信じるのか!」

b.「この事故は交差点の真ん中でぶつかり、自転車が歩道に飛ばされてタイヤ痕が付いたと保険会社が言っているからそうではないのか?」

c.「警察は被害者の味方なんか、被害者の言い分だけ信じるんか?」

というようなやりとりが聞こえたという (検12上申書)。

これについて、被告人は、本件公判廷において、bの内容の発言についてはこれを認め、aの発言についてはこれを否定し、cの発言についてはよく覚えていないと供述する (被告人質問)。

しかし、そもそも、検甲12上申書については、弁護人は全部同意をなし、その記載内容についても一切争おうとはしていない。

また、上記窓aの内容の発言については、被害者の観族の作文なのかとの尋問に対しては「そうとまでは言いませんが・・・」と概ね同一内容の発言があったことを認めていると受け取れる供述をなしてもいる。

さらに、cの発言については、覚えていないはずのない発言であるが、発言内容を肯定したのでは余りにも心証を害することから、「覚えていない」との供述がなされたとしか考えられない。

何よりも、5月12日実況見分当日の被告人の警察官とのやりとりを聞いた両親が目撃者捜しを行わなければならないと考えるだけの異常な発言が被告人によってなされなければ、わざわざ

警察には頼らず独自に目撃者捜しをしたりはしないはずである(6月9日付けの検甲11上申書末尾7行)。

これらに照らせば、上記の a,b,cの内容の発言を被告人がなしていたことも明らかな事実として認められる。

④目撃者捜しの妨害と6月30日の架電

被告人は、5月12日実況見分の後の被告人と警察官のやりとりを聞いて被害者の両親が独自に始めたビラ貼りによる目撃者捜しを妨害している。

なお、当該ビラの内容は、「目撃者を探しています。(事故現場写真挿入)。(被告人車両と同一車種の写真挿入)。日時 : 3月7日 (水) 曇り午前7時35分ころ。場所: ○○1丁目3番10号付近。ミニバン (42歳男性)と自転車 (19歳女性)の人身事故が発生しました。この事故を目撃された方、下記までどうかお知らせ下さい。ご協力のほど、宜しくお願いいたしますとして、末尾に被害者母の氏名、携帯電話番号及び警察署及びその電話番号を記載したものであり、被告人を特定したり、被告人を非難する内容のものではなかった(被告人質問)。

しかるに、被告人は、これらのビラが貼られたスーパーや電力会社に怒鳴り込み、これらを剥がさせている (検甲12)。

また、被告人は、6月30日午後10時30分から1時間30分にわたって目撃者捜しのビラを貼ったことに腹を立て、被害者母の携帯電話に架電している。その際、被告人は、母親から電話を替わった父親に対して、「あんなやり方がフェアだと思いますか?」、「お宅が被害者ですか?」、「双方に責任があるんでしよ?」等々と執拗に被害者父を責め立て続けている (検甲12上申書)。

被告人は、これらの発言のうちには覚えていないと供述しているものもあるが、概略についてはこれを認め、損害保険会社から過失割合というものがあって、事故の責任を一方だけが負うものではないと聞いており、誤解していたからだ等と弁解している(被告人質問)。

(3)被害の大きさについて

被害者は本件事故によって、外傷性くも膜下出血、急性硬膜下血腫、高エネルギー外傷・肝損傷等の重篤な傷害を負い、これらの治療のために救急病院に搬送されて保存的加療を受けたが、意識障害が続きびまん性脳損傷の合併が認められ、その後、リハビリ目的で2回転医して、現在も入院・入所中であるが、小脳欠損による体幹機能障害のために歩行不能・左上肢の著しい障害の外、深刻な記銘力障害等を中心としているため、常時介護または随時介護が必要な高次脳機能障害が残存することが確実視されており、被害は極めて大きく、悲惨である (以上、検甲2ないし7、11、12)。

第2.法律の適用についての意見
1.本件事故態様の悪質さ
本件事故態様は、以上のとおり、3月7日水曜日の通学時間帯である午前7時35分ころ、被告人が被告人車両を運転して通学路径路ともなっている本件交差点に進入するにあたって (通学路の認識については検甲4)、閑静な住宅街の最高速度時速30キロメートルの下り坂の道路を時速50キロメートル以上の高速で進行し、折から本件交差点横断歩道上で被告人車両に気づいて後ろに下がろうとしている自転車に乗った被害者を発見して急転把・急制動を試みたものの、被害者との衝突を避け得なかったというものである。

被害者には何の落ち度もない。本件事故の原因は全て被告人が作出したものであり、被告人が挙げてその責めを負うべきであることは明らかである。

また、上記の事故態様からは、本件事故が、故意にも比肩すべき被告人の重過失に基づいていることも明らかである。

さらに、本件事故態様からは、公道上の他者の存在を顧みることなく、交通弱者である歩行者等に対してはそこのけといわんばかりの職業運転手とは思えない極めて無謀かつ乱暴な危険運転をなす被告人の運転態度がうかがわれる。

被告人の犯情は類を見ないほど悪く、その刑責は極めて重い。

2.被害の大きさ
前述のとおり、被害者の負った傷害の程度は極めて重く悲惨である。

被害者は未だに自宅に帰ることが出来ず、病院や専門施設で、治療・リハビリに励まなければならない。

また、既に、移動障害や上肢の機能障害等を発現する重篤な体幹機能障害が明らかとなっており、記銘力や言語能力等を阻害する重篤な高次脳機能障害が残存することが明らかとなりつつある。

本件事故当時、19歳の健康な看護学生であった被害者の明るい未来は、被告人の無謀かつ乱暴な危険運転の結果、奪われてしまったのであって、この点でも被告人の刑責は極めて重い。

3.事故後の被告人の対応の悪質さ

事故後の被告人の対応は常軌を逸しており、その悪質さは特筆すべきである。

第1に、被告人は、本件事故に基づく被告人の刑責が正式裁判によって判断されることが決するまで、被害者やその両親にきちんと謝罪しようとしたことはない。

被告人は、その理由として、損害保険会社から受けた過失割合に関する説明を挙げるが、仮にそうだとしても、誤解を招くような説明をなした損害保険会社担当者が非難されるべきのみならず、そもそも。

被害者の受けた重篤な傷害内容や後遺障害内容を知れば、当然になすベきである謝罪をきちんとしようとはしない被告人の人格態度こそが厳しく非難されなければならないことは明白というべきである。

なお、弁4謝罪文に至っては、正式裁判用に作出されたものとしか考えられない。

第2に、被告人は、本件事故後、頻繁に被害者の安否を確認するために被害者の母親に架電し続けており、被害者の両親の心情等については一切思いやることがない身勝手な行動を続け、被害者やその親族に精神的苦痛を与え続けている。

第3に、既に上述した5月12日実況見分の際の被告人の一連の行動は常軌を逸しており、そこには、凡そ反省の態度は見いだせないし、被害者や被害者の親族の受け止め方などには全く配慮することなく、自らの都合を最優先させるとともに、自己の刑責を免れるために、自らの無謀運転によって重篤な傷害を負わせた被害者の指示説明の信用性を口汚く争い続けて、またもや、被害者やその親族に精神的苦痛を与え続けており、また、かかる被告人の対応・態度からは、自己中心的かつ短絡的な被告人の人格態度が露わとなっている。

第4に、被害者の両親が行ったビラ貼りによる目撃者捜しに対する被告人の対応も自己中心的であって、6月30日の架電に至っては、自らが重大な交通事故を惹起した張本人であることを棚に上げ、深夜に1時間30分にわたって自らも被害者であることを匂わせて被害者親族を難詰し続けて被害者親族に精神的苦痛を与え続けているのであって、文字通り、開いた口がふさがらない反省のかけらすらもうかがうことのできない対応をなすとともに、人間性を牽も感じることができない対応をなしているのである。

第5に、被告人は、自己の刑責を軽くするために、事故当日である

3月7日に実施された実況見分の際、被害者が自転車に乗って左方向から出てきて横断歩道上に出てきたと虚偽の供述をなし、被告人進行車両の進行速度についても、5月12日実況見分以後、時速50キロメートルから時速40キロメートルに低下させる供述をなしていることについては、前述のとおりである。捜査段階における供述内容等からも、真塾に事故と向き合おうとはしない被告人の自己中心的な性格と反省の欠如が明らかなのである。

第6に、本件公判廷における被告人の供述を聞いても、その内容は自己中心的かつ不合理な弁解に終始しており、公判段階においても、被告人の自己中心的な性格と反省の欠如が明らかとなっていることは寺筆すべきである。

4.被害者らの処罰感情

本件事故態様、被害の大きさ、被告人の非人道的ともいうべき被害者家族との対応と無反省な態度等の結果、当然ながら、被害者らの処罰感情は著しく高く、被告人を厳罰に処することを切望している。

5.量刑についての意見

以上のとおり、本件事故態様は極めて悪質であり、事故の結果も悲惨であって、被害者らの処罰感情が極めて高いことは当然である。

また、被告人の自己中心的性格や反省の欠如は、本件公判段階に至ってもなお顕著であり、再犯可能性も高く、このまま、被告人を実社会に置いてその篇正を期待することは到底できない。かかる判断は、被告人には未成年子を含む家族があること、本件犯行当時、正業に就いて社会人として稼働していたこと、本件犯行によって失業し社会的制裁をある程度受けていること等、被告人に有利な情状を勘案しても、左右されるものではない。

よって、刑法第211条第2項に基づき、被告人を、

懲役1年6月

の実刑判決に処することを相当とすると被害者参加人委託弁護士は思料するものである。

実録 交通事故刑事裁判 第3回公判パート3につづく

自動車運転過失傷害事件 第3回公判 弁論要旨 第3回公判は、1.論告要旨2.委託弁護人による意見書3.弁論要旨...

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